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伊豆
見た目も味も華やか!『稲取キンメ』が名を馳せるまで。
公開日:2024.10.02
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伊豆半島は、相模湾と駿河湾に囲まれ、古くから漁業が盛んな地域。新鮮な海の幸の味覚を求め、多くの観光客が訪れます。中でも人気なのが、伊豆半島東側の海で獲れるキンメダイ。鮮やかな朱色の体色と、金色に輝く大きな目を持った華やかな見た目、脂ののった柔らかくクセのない味の味わいが多くの人を惹きつけています。今回はキンメダイの水揚げが盛んな稲取を訪ね、その魅力を掘り下げてみたいと思います。
伊豆半島の東海岸に小さく突き出た岬に稲取の町があります。温泉にも恵まれていることから、多くの観光客が訪れます。海沿いを走ると見えてくるのが稲取漁港。ここが稲取のキンメダイ漁の拠点です。稲取ではなぜキンメダイ漁が盛んなのか?その理由を探るため、伊豆漁業協同組合稲取支所を訪ね、運営委員長の鈴木精さんにお話を聞きました。
「稲取のキンメダイ漁の古い記録として、明治時代に練り物の材料にするオキギスをとっていた時に金目鯛がかかったという文献が残っています。大正時代に入ると小田原で現在の両方の原型となる仕掛けを使ってキンメダイ漁を行っており、その漁法を教えてもらう形で稲取でも漁がはじまったそうです。キンメダイは地元では昔から食べられており、祭りや正月、祝い事の席にはキンメダイの姿煮が欠かせませんでした。その後、1950年台に温泉が出て、1960年代に伊豆急行線の駅ができたことで、稲取に多くの観光客が来るようになりました。その頃から温泉旅館ではキンメダイ料理を出すようになり、その評判が口コミで広く伝わっていったようです」(鈴木委員長)
伊豆の金目鯛漁の発祥の地である稲取では、近海の地物にこだわって漁を行っています。主な漁場は港から十数km、伊豆半島と伊豆大島の中間あたりです。稲取のキンメダイはずんぐりと丸みを帯びて身が厚く、こってりと脂がのっているのが特徴。現在は「稲取キンメ」として商標を取っており、静岡県ブランド「頂」にも認定されています。
「稲取のキンメダイは、ハダカイワシやホタルイカ、サクラエビなど、人間が食べても美味しい魚介を餌にしているので味がいいんです、6〜8月中旬の産卵期を10〜3月下旬の寒い時期が最も脂がのっていて美味しいですね」(鈴木委員長)
取材をしていると、沖から漁船が次々と港に帰ってきます。漁船は日の出に合わせて漁に出ます。キンメダイは早朝に、漁場の海底にある海山の高いところに集まってくるからです。夏場は4時、冬場は6時には漁場について操業を開始するそうです。
「稲取でのキンメダイ漁で伝統的に使われているのは、立て縄という漁法。最大40本の釣り針を縦に並べた”かせ”という漁具に棒状の大きな錘をつけて海に落とします。餌はイカやカツオ、サバの身を短冊状に切ったもの。浅いところで220m、深いところで約600mまで仕掛けを落とします。最近は潮の流れが速くなったので、根掛かり※しないように狙った場所に落とすのが難しくなりました」(鈴木委員長)
※根掛かり…針が水中の障害物に引っかかり、動かなくなってしまうこと
キンメダイを釣り上げた漁船は、15時までに帰港します。漁船から水揚げされた獲れたての美しいキンメダイが、次々に運ばれてきます。実は、キンメダイが生きている間、体が銀色に輝いているため、稲取では”ぎんでえ(銀鯛)”と呼ばれているそうです。運ばれてきたキンメダイは、重さを測ってサイズごとに仕分けられ、出荷されます。
「小さいので300g~400g、大きいので800~1200gあります。以前より大きいキンメダイが揚がらなくなりました。また、黒潮の大蛇行による環境の変化やイルカによる食害で、ピーク時に比べて水揚げ量は大きく落ち込んでいます。そのため、小さいキンメダイは捕獲しないなど、資源保護を行いながら稲取キンメを守る努力を続けています」(鈴木委員長)
続いて向かったのは、漁協の目の前にある『稲取金目の宿 はまべ荘』。昭和52年に操業したこの旅館では、漁協から直接仕入れた稲取キンメだけを使った贅沢なキンメダイ料理が味わえます。
「当館では、毎日、漁協に通ってキンメダイを仕入れています。尾の軸が太くて頭頂部が膨らんだ脂ののったキンメダイを選ぶようにしています。脂がのっているかどうかは、包丁を入れただけで分かります。仕入れたキンメダイは、内臓を早めに抜いて、冷蔵で保存しています。冷凍すると煮付けにした時に目が割れてしまうからです。来館されるお客様は、キンメダイが目当ての人がほとんどです。『稲取金目鯛づくしプラン』では、姿煮、塩焼き、刺身、天ぷら、鍋、あら汁など、様々なキンメダイ料理をご提供しています」(鈴木代表)
そう話すのは、代表の鈴木弘康さん。この日見せていただいたのは、定番のキンメダイの姿煮です。大きなお皿からはみ出しそうな立派なキンメダイ。真っ赤な魚体を覆う照りが食欲をそそります。
「たっぷりのっている脂と相性を考えて、濃く甘めに味付けしてあります。煮るときには皮が剥がれないよう、火力をこまめに調節しているのもこだわりです。おすすめの部位は胸ビレの周りです。よく動かす部位なので、みが引き締まっていて美味しいですよ」(鈴木代表)
お箸を入れるとふんわりとみがほぐれます。口へ運んでみると、滑らかな身に甘辛い煮汁が絡まって実に美味!部位によって身の硬さが異なり、違った味わいを楽しめます。
驚いた一品は、キンメダイの卵と白子の煮付け。夏場の産卵期に揚がった新鮮なキンメダイからしか採れないため、このへんでしか食べられないそうです。
稲取ならではのキンメダイ料理、訪ねた際には、ぜひ堪能してください。
#東伊豆町