静岡の食文化を知る

東部

釣り体験でも高級レストランでも!富士山の恵みで育つ「ニジマス」

公開日:2024.11.12

水産物

歴史

特集

ニジマスは、刺身やマリネから、焼き物、揚げ物、煮物など、さまざまな調理法で食べられている人気の食材です。

この魚、実は北米が原産で、日本には明治10年にアメリカのカリフォルニア州から卵の状態で運ばれてきました。大正15年になると国は山間での淡水魚の養殖や河川での増殖を奨励し、ニジマスの養殖は徐々に拡大していきます。

そして、昭和8年には国内で3番目の県営ニジマス養殖場として、富士宮市に富士養鱒場が誕生しました。

現在では、ニジマスの生産量は静岡県が日本一を誇り、地元の富士宮市では、「市の魚」にも定められています。

今回は、富士養鱒場を訪ね、生産の業務を担っている富士養鱒漁業協同組合の方々に、ニジマス養殖の歴史や現在の取り組みについてお話を伺いました。

 

 

富士養鱒場は標高700mの朝霧高原の中にあります。敷地内に入ると、木立の中に澄み切った清水を湛えた池がいくつも並ぶ幻想的な光景は広がります。

 

「ここは芝川という河川の水源になっており、ミネラルを含んだ富士山の清浄な伏流水※が1日あたり平均5万トン湧き出ます。水温は年間を通じて10℃となっており、低水温の環境を好むニジマスにとって理想的な環境が形作られています。種苗生産や釣り堀のほか、大型のブランドニジマスも育てているんです。」そう語るのは、富士養鱒漁業協同組合・事業部長を務める森垣大助さん。

 

※伏流水…川の水がしみ込みやすい土地で、地中にもぐり込んで流れる、その水のこと。

 

今回、お話を伺った富士養鱒漁業協同組合の森垣大助さん(左)と八木俊哉さん(右)。

 

 

富士養鱒場は一般の方でも見学可能です、(入場料:大人300円、中学生以下100円)。施設内には直営の釣り場があり、一竿1,800円で竿や餌を借りることができ、手ぶらで楽しむことができます。(令和6年10月現在)

 

 

季節や曜日によっては、釣り上げた魚はその場で焼いて食べることができます。

今回は、シンプルな塩焼きでいただきます。味がふっくらして、とても美味。

 

 

読者の皆さんもぜひ、富士宮産のニジマスを見て、釣って、食べて、その魅力を体感してください。

 

 

その場で食べるニジマスも美味しいのですが、富士養鱒場では『富士山の湧水が育てた大々鱒(おおます)紅富士(あかふじ)』という富士養鱒漁業協同組合のブランドニジマスも生産しています。

 

 

底まで見通せるほど澄み渡った養殖池の中を覗くと大きなニジマスがぐるぐると回遊しています。

「こちらが紅富士として出荷予定の魚です。通常よりも長い2〜3年の育成期間を経て、2kg以上の特大サイズになるまで丁寧に育て上げています。紅富士は、養殖技術を駆使して作られた成熟しないメスのニジマスで、ヒレの形や身の色など、厳しい基準をクリアしたものだけが、紅富士として販売されます。産卵にエネルギーを取られないことによるきめ細やかな身質や上品な脂、旨みが凝縮した味わいなどが特徴です。」(森垣さん)

紅富士は、静岡県ブランド「頂」にも認定されており、県内外でとても人気のある食材です。

 

紅富士用のニジマスの卵は、年数回、特別な技術により生産され、富士養鱒場内で約100gの大きさの稚魚まで育ててから市内の各養鱒場に供給されます。その種苗※を市外に出すことは一切禁止されているとのことです。一定の水温で養殖されることに加えて複数の生産者が協力して計画生産していることで、市場のニーズに対応しながら周年に渡り安定供給できるのも強みです。

 

「平成28年の出荷量は44トンでしたが、その7年後の令和5年には128トンと右肩あがりに増加しています。今後はさらに出荷量を増やしていきたいと思っています」(森垣さん)

 

紅富士はホテルやレストランで主に生食用に使われ、約半数が県内で消費されるそうです。

 

※種苗…ここでは養殖用の稚魚及び卵のこと

 

 

ニジマスの魅力を堪能できるレストランが富士宮市内にあると聞き、早速訪ねてみました。木立に囲まれたこのお店は、「Restaurant Mitsu(レストラン ミツ)」。大使公邸料理人を務めたこともあるオーナーシェフの石川光博さんが、地元の食材を使ったフレンチを提供しています。

 

 

「料理の修行でフランスの地方レストランを回ったことがあるのですが、どこも地元の食材を大切にしていました。私も故郷である富士宮市でそんなレストランをオープンしたいと思い、28年前にこのお店を創業しました。オープン以来、地元の生産者と連携しながら、できるだけ身近にある地の食材を取り入れたメニューを出しています。そうすることで季節感を出せるうえ、価格を抑えられるというメリットもあるんです」と石川シェフは語ります。

 

今回は特別に紅富士を使った料理を4品、作っていただきました。

 

 

1品目は「ニジマスのタルタル ワサビのソース」。生の紅富士を細かく切り、玉ねぎやケッパーと和え、富士宮産のワサビとオリーブオイルで作ったソースを合わせています。紅富士の芳醇な旨みとワサビの刺激が好相性。最後まで爽やかな味わいを楽しめます。

 

 

2品目は「ニジマスと季節野菜のスープ仕立て」。ブイヨンにニジマスの切り身を入れ、大根、人参、翡翠ナス、インゲン、富士宮市の山で採れたハナイグチというキノコなどを加えて煮込んでいます。どの食材も絶妙な加減で火が通されており、それぞれの食感を楽しめます。紅富士と様々な野菜から出た旨みと香りが凝縮されたスープは絶品です。

 

 

3品目の「ニジマスのフリット香草風味」。薄い衣をつけてさっと揚げた紅富士のフリットに、クレソンやパセリなどのハーブから作ったピューレ状のソースを添えた一皿。

 

 

4品目が「ニジマスのポワレ」。紅富士の皮目をしっかり焼くことで、”ミキュイ"という半生の状態に仕上げています。新鮮だからこそできる調理法です。周囲には地元産のキノコを添え、香草のソースを載せています。カリカリの皮と火が通った柔らかな身、そしてしっとりとした生の赤みが醸し出し複雑な食感で、虜になってしまう逸品です。

 

 

それぞれ異なる調理法で紅富士の持ち味を存分に引き出した4品からは、紅富士という食材が持つ大きな可能性が感じられました。

 

 

釣り体験から高級レストランまで、様々な楽しみ方を持つ富士宮市のニジマス。

皆さんもぜひお好みの方法でご賞味ください。

 

 

#富士宮市