静岡の食文化を知る
西部
猟師のことから調理のことまで全てに精通した仕事人がつくる静岡ジビエの料理
公開日:2024.03.13
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ジビエとは、野生の鳥獣を捕獲し、そのお肉を料理としていただくフランスの言葉です。今でこそ、精肉にして販売するには許可を得た施設であることが必要ですが、日本では古くからシカやイノシシ、キジ、カモなどを食す文化があり、各家庭で食べられていました。特に、シカとイノシシに関しては捕獲頭数も多く、静岡県内でもシカとイノシシの食肉を利用したジビエは、比較的目にする機会が増えてきたのではないでしょうか。
そんな静岡ジビエに魅せられ、菊川で「西欧料理 サヴァカ(以下、サヴァカ)」を営む「ふじのくに食の都づくり仕事人」でもある山口祐之(やまぐちまさゆき)さんに、ジビエの魅力についてお話しを伺いました。
野生動物の骨を焼き、そのガラでスープをつくる。手間ひまかけた山口さんの静岡ジビエ。
JR菊川駅からタクシーで15分、JR掛川駅からタクシーで25分。車で向かうと、本当にこんなところにレストランがあるのだろうかと驚くような山と畑に囲まれた場所に、ポツンと立つ一軒家レストラン「サヴァカ」。
テーブルセッティングには、ヤマドリやキジの羽などが使われており、ジビエ料理への期待を膨らませてくれます。
「サヴァカ」では、シカ、イノシシ、キジ、カモ、ムクドリ、スズメ、ニホンカモシカ、ウサギなど常時20種類程度のジビエのストックがあり、夜のコース料理ではプランに合わせて、7〜10種類以上のジビエを使った料理を提供しています。
ジビエについて造詣が深い山口さんの評判を聞きつけ、県内はもちろん、東京、大阪、京都などの遠方から「サヴァカ」を目指して訪れるお客さんが多く、ときには食通で知られる著名人がお忍びで訪れることもあるそうです。
日本一高い山・富士山と、日本一深い湾を持つ静岡県は、山から海までの高低差があり、食材の種類が豊富。それと同様に、野山に住む野生鳥獣の種類、その餌の種類も多様です。
ヒヨドリは1月になると冬籠もりに備えてミカンをたくさん食べます。ミカンを食べたヒヨドリは脂が黄色くなり、山の木の実を食べて育ったヒヨドリとは、また違う味になるのだといいます。
山口さんは、動物たちがどこで育ち、どんな方法で、そしてどんな状態で仕留められたかを知った上で、ジビエ料理を手がけています。また、スプーン1杯のジビエのソースづくりでも、2〜3週間ほどかけてつくっています。
たとえば、カモ料理のソースでは、大型のイノシシやシカの骨を焼き、ガラで出汁をとります。それにエシャロットや白ワインなどを加え、味を整えていく。素材を引き立てるには、何よりもソースのクオリティが重要となってくるので、あえて獲物の状態から吟味し、手間をかけて仕上げているのです。
菊川で出会ったジビエの味に感動して菊川に出店を決める。
山口さんはお父さまの仕事の都合で転勤が多かったため、子どもの頃は全国各地を転々としていたそうです。
「父はもともと静岡の出身で、テレビ局の料理番組を担当していました。その影響で、父に連れられ、休日は山菜や竹の子を採りに行ったりしていましたね」。
高校卒業後は料理人の道を選択し、日本とフランスでシェフとしての地位と実力を確実に積み上げていった山口さん。菊川に移住していた父の元を訪れた際、猟師さんたちに食べさせてもらったウサギやヒヨドリの味に衝撃を受けました。ジビエをはじめとする静岡の食材に惹かれ、菊川に出店することを決めました。
同じシカ肉でも、クマザサを食べて育ったシカは味が全然違う。
「オープン当時はジビエを提供するつもりは全然なかった」と話す山口さん。なぜジビエを提供するようになったのでしょうか。
「ご存知のとおり、菊川もお茶の産地です。お茶のシーズンが終わった後、集落で打ち上げがあるんですが、そこにお呼ばれした際、川根のシカを食べさせてもらったんです。そのときにいただいたシカの味は、本当に初めての味でした。クマザサを食べて育ったシカは、香りが良くおいしい。竹の皮で包んで蒸したちまきがおいしいように、クマザサを食べて育ったシカは、ササの香りがつき、栄養価も高く、肉自体に旨みがのる」。
改めて静岡ジビエの魅力を感じた瞬間だったといいます。
山口さんが扱うシカ肉は3つの系統があるとのこと。
「富士のシカは、体格が良く、体重も80〜200kgほどと大きい。ジビエに食べ慣れていない方は富士のシカがおすすめで、クセが少なく、柔らかくて食べやすいですね。水窪(浜松市天竜区)のシカはサイズこそ小さいですが味は良いですね。そして川根のシカは体重100〜120kgほどですが味は一番だと思います。香りがあり、味に力強さがあります。お客さまや料理に合わせて、同じシカ肉でも産地に合わせて使い分けています」。
ジビエに強い興味を持ち始めた山口さんは、本をたくさん読み、猟師から話を聞き、そして猟師について山を訪れるようになっていきます。猟犬を使う猟師がいれば、猟犬についての勉強もする。「猟犬についてなら2日は語れるくらい詳しくなりましたよ」と山口さんは笑います。
山口さんの猟師とのコネクションの数は実に50人ほど。仕留め方のリクエストをすることもあり、それらはすべて長年蓄積してきた信頼関係の上に構築されています。
犬を使うか、どんな鉄砲を使うか、車を使うのか、グループなのか、単独なのか。同じ場所、同じ動物でも、仕留め方で山口さんは調理の仕方を変えていきます。
「例えば、水上にいるカモは、撃たれると水の中に入ってしまう。冬の寒い時期、水に入って仕留めたカモを引き上げるわけです。猟師さんはとても大変。その苦労を知っているので、僕はジビエを大切に扱い、調理していくのです」。
貪欲な探究心で静岡ジビエへの可能性を探り続ける。
「ジビエにはフルーツのソースがよく合います。せっかくのジビエをおいしく仕立てるために、サワーチェリー、ヘーゼルナッツ、カシスなど、フレッシュで手に入るものは現地に取りに行ったりもしています。ジビエは奥が深く、毎年毎年、新たな発見がある。コンソメだけでも何種類もつくります。もちろんジビエの種類や状態によって調理方法が異なりますが、最終的にどのような料理にしたいかを考えて仕上げます。組み合わせでも無限ですし、整える作業が楽しいんですよ。大げさに言えば、オーケストラの指揮者のような気分で料理をしているんです。ベストの状態を、最新の技術で提供したいですね」と常に研鑽を積んでいる様子。
山口さんのお話を聞いていると、静岡ジビエにますます興味が湧いてきます。ジビエの種類が豊富なのは冬と言われていますが、最近は通年提供できるジビエも増えていているので、時期を問わずジビエを味わうことができるそうです。ぜひ一度、「サヴァカ」を訪れ、静岡ジビエの魅力を体験してみてください。
西欧料理 サヴァカ
住所: 静岡県菊川市沢水加791-11
TEL:0537-37-1820
https://cavak.jp/
#菊川市