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「徳川家康も愛した歴史の味:静岡・折戸なすの魅力とその伝統」
公開日:2024.12.29
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初夢に出てくると縁起が良いとされるものとして「一富士、二鷹、三なすび」という言葉がありますが、それは将軍・徳川家康の好んだものに由来するという説をご存知でしょうか?人生の3分の1を駿河国、現在の静岡県中部で過ごした徳川家康は、駿河国から見える富士山、趣味としていた鷹狩り、そして駿河国産のナスを大層好んでいたことから「一富士、二鷹、三なすび」という言葉ができたと言われているのです。その“三なすび”の由来となったナスが現在も県内で作られているとのこと。一体どんなナスなのか、産地を訪ねて取材してきました。
足を運んだのは、名勝、三保の松原のほど近く、静岡市清水区の三保・折戸地区です。ここで生産されている「折戸なす」が、家康の大好物だったナスだと言われています。
「折戸なすは徳川家康に献上されていたという記録が残る歴史ある農作物ですが、収量が安定しなかったためか明治時代頃に栽培が途絶え、世の中から姿を消してしまっていました。しかし、20年ほど前に三重県の農業試験場に種が残っていることがわかり、数粒の種を譲り受けて『折戸なす』を復活させたのです」
そう語るのは、「折戸なす」の生産者であり、「折戸なす研究会」会長を務める櫻田盛己さん。「折戸なす研究会」は、JAしみずに所属する6名の生産者で構成されており、「折戸なす」の栽培技術の向上や普及活動に取り組んでいます。
「『折戸なす』は原種のナスですので、品種改良されたナスに比べると栽培が難しく収量が安定しません。そのため、他の生産者と情報交換をしながら試行錯誤を繰り返しています。」と櫻田さん。
「折戸なす」が生産されている三保・折戸地区は、日照時間が長く温暖で作物が育ちやすい砂地であったため、早くからハウス栽培が行われてきました。櫻田さんもキュウリやトマトのハウス栽培を長年手がけており、そのノウハウを生かして「折戸なす」の栽培に取り組んでいます。
「3月に種を蒔き、4月に苗を植え付けます。5月下旬頃から収穫できるようになり、6〜7月が出荷のピーク。毎年6月1日には徳川家康が奉られている駿河区の久能山東照宮に奉納して、豊作を祈願します。真夏は収量が落ちますが、その後、秋ナスが収穫できるようになり、年内いっぱいは出荷できます」
丸々と育った「折戸なす」。写真のように塩ビパイプの大きさを基準に収穫に適した大きさかどうかを判別します。
「折戸なす」の生産量は年間10〜15トン。地元のスーパーや飲食店を中心に流通しています。
「普通のナスに比べて肉質がしっかりしていて、コクのある濃厚な味わいが魅力となっています。加熱調理しても型崩れしないため、天ぷらや素揚げなど、油を使った料理に最適です」(櫻田さん)。
もぎたての「折戸なす」を早速料理に使ってみました。切ってみると、断面からも肉質のきめ細かさが伝わってきます。
半分に切った「折戸なす」を焼いて肉味噌をのせてみました。口に運んでみると、とてもジューシーで素材本来の甘みが舌の上に広がります。
「ちょっとした贅沢として、家康公も愛した味わいを楽しんでほしいですね。今後は復活した『折戸なす』の栽培を継続しつつ、その魅力をより多くの人に伝えていきたいと思います」と櫻田さん。
由緒ある『折戸なす』を食べて縁起を担ぎつつ、家康公が生きた時代に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
#静岡市