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東部・伊豆

伊豆の本わさび—清流が育む伝統の栽培と味わい

公開日:2025.02.27

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鼻にツーンと抜ける心地よい刺激と爽やかな香り。わさびは刺身や寿司をはじめ、和食に欠かせない食材です。デリケートな植物で、生育環境が特殊なことから、国内でもごく限られた場所でしか生産されていません。静岡県伊豆半島は、そんなわさびの日本有数の生産地。なぜ伊豆半島でわさび栽培が盛んなのか、伊豆半島で作られるわさびの魅力は何なのか、それを探るため生産者にお話を聞きました。

 

 

 

 

<静岡わさび農業遺産推進協議会より提供>

山間の谷に沿って段々に広がるわさび田。ここは伊豆市の山中にある「筏場のわさび田」。約15ヘクタールと日本一のわさび栽培面積を誇ります。わさびの苗の間には清らかな水が流れていきます。上流から絶え間なく流れてくる冷たく清浄な湧水。これこそがわさび栽培に欠かせない自然の恵みなのです。

 

 

 

 

伊豆のわさび栽培は、400年以上前に静岡市葵区有東木で始まったと言われており、徳川家康が、献上されたわさびを気に入って門外不出にしたという逸話も残っています。そこから静岡県各地の湧水に恵まれた地域に広まり、令和4年の水わさび根茎生産量や栽培面積、産出額は静岡県が日本一。産出額においては全国シェアの7割を占めるまでに発展しました。主な生産地は、伊豆市の中伊豆地区と天城湯ヶ島地区で、両地域で県内のわさび栽培面積の6割以上を占めています。

 

 

 

 

<静岡わさび農業遺産推進協議会より提供>

伊豆地域でのわさび栽培における最大の特徴は、段々の棚田。これは1892年頃に中伊豆の石工技術者により開発された画期的な栽培方法で、「畳石式わさび田」と呼ばれています。下層から上層に向かって徐々に小さな石を積み重ねていく構造を作ることで、不純物を濾過しつつわさび田の内部にまで水や酸素を供給し、病気にかかりづらく、高品質なわさびの生産を可能にしているのです。この「畳石式わさび田」は、その美しい景観や巧みな栽培技術が認められて、2018年に国連食糧農業機関(FAO)の「世界農業遺産」に認定されました。

 

 

 

 「『畳石式わさび田』で栽培すると太さのある立派なわさびに育ちます」と話すのは、筏場の隣の地蔵堂という地域で16代にわたってわさび農家を営む「わさびの大見屋」代表の浅田譲治さん。

 

 

 

 

「わさびは冷たい水さえあれば育つわけではありません。気温や日照時間など、さまざまな条件が整っていないとちゃんと生育しないのです。そんなデリケートな性質ですので、育つ場所や季節など環境によって味や色が変わります。特に冬場は辛味が強くなります。その時々のわさびの味わいを楽しんでほしいですね」(浅田さん)。

 

 

 

 

わさびは苗を田に植えてから、1年から1年半かけてじっくりと育ちます。植付の時期を調整することで年中収穫が可能ですが、その分、作業は絶え間なく続きます。

 

 

 

 「冬場は冷たい水に浸かって収穫します。朝方はわさびが凍っているので、収穫のタイミングは午後になります。収穫したわさびは、葉や茎、根を取り除いて出荷できる状態に加工する“調整”という作業に回されます。うちのわさび田は山間に点在しているのですが、以前は収穫したわさびをその場で調整していました。現在は、店舗に併設した作業場に運び込んで一括して調整するようになり、だいぶ楽になりました」(浅田さん)

 

 

 

自然環境を生かし、肥料や農薬を極力使用しないわさび栽培は、環境負荷の少ない持続可能な農法だと言われています。また、わさび田にはホタルやサンショウウオが生息するなど、生物多様性にも貢献しています。

 

 

 

「わさびは花も茎も食べられます。捨てるところはありません」(浅田さん)

 

浅田さんは、多くの人に伊豆のわさびの魅力を知ってもらうため、1993年に店舗のそばに「石庭わさび園」を作りました。ここでは、わさびの歴史が学べたり、わさび田を見学できるほか、わさび収穫体験やわさび漬作り体験を楽しむこともできます。

 

 

 

店舗では、わさび漬やわさびのり、わさびみそなど、大見屋のわさび田で採れたわさびを使った加工食品も購入できます。

 

 

 

続いて向かったのは、大見屋から車で5分ほどのところにある「伊豆わさビジターセンター」。ここは、伊豆のわさびに関する様々な情報発信や地域との交流を目的とした施設で、20244月にオープンしました。

 

 

 

「伊豆わさびを『五感』で楽しむ」をテーマにしており、わさびに関するさまざまな資料を閲覧できるほか、映像でわさびについて学んだり、VRゴーグルを使ってわさび田にいるような体験をしたり、すりおろしたての生わさびとチューブわさびを食べ比べて味や香りの違いを体験したりすることができます。

 

わさびの爽やかな香り、ツンとした辛味、清らかな水が育む美しい景観――五感をフルに使って楽しめる伊豆のわさびの魅力を、ぜひ現地で体験してみてください。

 

 

 

<静岡わさび農業遺産推進協議会より提供>

わさび田を訪ね、わさびについて学び、実際にわさびを味わえば、わさびのことがもっと好きになること間違いありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#伊豆市