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日本一の称号を手にした、愛鷹山麓の恵み。「あしたか牛」を巡る沼津・長泉・御殿場の旅
公開日:2026.03.09
肉
特集

富士山のすぐ南に位置し、沼津市、富士市、裾野市、長泉町の3市1町にまたがる愛鷹山(あしたかやま)。この広大な山麓周辺で、丹精込めて育てられているのが「あしたか牛」です。優れた品質と味わいで、多くの人々を魅了し続けています。今回は沼津市で45年以上、あしたか牛を育てる生産者のもとを訪ね、正規取扱指定店である長泉町の精肉店、そして御殿場市の飲食店へ。静岡が誇るブランド牛を巡る旅に出かけました。

沼津市の中心部から駿河湾に沿って南下し、最高級みかん「寿太郎」のふるさと・西浦地区へ。目の前には穏やかな駿河湾が広がり、背後には横たわる愛鷹山と、どっしり構える富士山が。海と山に抱かれたこの一帯は、“静岡の宝”と呼ぶべき景色が広がり、日々の暮らしにそっと寄り添っています。

やってきたのは、みかん畑に囲まれた場所に佇む「株式会社やまだいふぁーむ」。清潔に保たれた牛舎では、海風を感じながら、牛たちがゆったりと過ごしています。

驚くのは、牛舎特有の匂いがほとんどしないこと。二代目の大川泰秀さんは、週に一度のペースでおがくずを入れ替えるなど、環境づくりを徹底。現在は、45年以上前に牛の飼育を始めた初代の善美(よしみ)さんと親子二人で、約120頭のあしたか牛を育てています。

高校で畜産を学び、JA職員として農業の最前線を歩んできた泰秀さん。現場経験のなかで、牛の爪を整える「削蹄士」や藁を丸める資格、さらには命を授ける「家畜人工授精師」など、数多くの専門技術を習得してきました。
実は、牛舎にいる牛のうち9割がメス。泰秀さんは一頭一頭のわずかな変化も見逃しません。
「牛がそわそわし始める“発情期”のサインがわかります。この時期は気性が荒くなって怪我もしやすい。だからこそ、先回りして注意深く見てあげられるんです」
そう語る泰秀さんの声は、どこまでも穏やかです。

しかし、ただ太らせればいいわけではありません。あしたか牛は、全国に先駆け、20年も前から「血液検査」を導入。牛の健康状態を数値で管理してきました。
「検査では、主にビタミンAの動きを追うんです」と、泰秀さんは語ります。「ビタミンAを少なくすれば霜降りは入りやすくなりますが、足りなすぎると健康を損なう。数値を見ながら、健康と品質のベストなバランスを探っています」

泰秀さんがさらにこだわるのは、一頭一頭、顔を見ながら手作業で餌をあげること。日頃から心を通わせていれば、体調の変化に気づけるだけでなく、出荷時に牛が暴れて肉質を傷めることもありません。
牛舎を歩く泰秀さんに、牛たちが次々と頭を寄せ、舐めるほど甘えてくる光景は、ここでの日常です。

また、あしたか牛は、安全への取り組みも先進的です。牛の耳にある番号札(個体識別番号)を専用サイトで検索すれば、出生地から食べた餌までわかる「トレーサビリティシステム」を、法律で義務づけられる前から全国に先駆けて導入してきました。
生まれ育った場所と生産者の顔が見えること。それが安心につながり、あしたか牛が愛される理由になっています。

沼津市を離れ、愛鷹山の東麓に位置する長泉町の「横山精肉店」を訪ねました。ここは1940年に家畜の仲買としてスタートした、80年以上の歴史がある老舗。1965年の店舗開業以来、“まちのお肉屋さん”として親しまれてきました。
店内は、スタッフの明るい声が響くアットホームな空間。初めて訪れても「ただいま」と言いたくなるような、温もりに包まれています。

ここで扱う牛肉は、100%あしたか牛。自ら「せり」に参加して一頭丸ごと買い付ける権利を持つ数少ない店として、納得のいく牛だけを厳選して競り落としています。
大切にしているのは、「最高のお肉を、誰もが手にとりやすい形で」という先代からの教え。店頭に並ぶあしたか牛は、他のブランド牛と比べても格段にリーズナブルです。

ショーケースの奥で包丁を握り、お肉を切り分けているのは、店長の輿五澤幸雄さん。
「あしたか牛はくさみがなくて、脂にしっかり旨みがある。本当にやわらかいんですよ」
そう語る店長の口元には、自然と笑みがこぼれます。

あしたか牛は、過去に開催された全国の品評会で、最高位の最優秀賞(日本一)に輝いたこともある銘柄。この美しい霜降りを見れば、名だたるブランド牛がひしめき合うなかで「最も優れた一頭」と認められたのも頷けます。

ちなみに、「あしたか牛」という名は、1980年に実施された一般公募によって決まったもの。その品質にいち早く惚れ込み、店の「顔」として扱うようになったのが横山精肉店の先代です。
いい牛を育てる生産者がいて、その価値を見抜き、責任をもってお客様へ届ける店がある。そんなまっすぐな信頼関係が、ブランドを育ててきました。

手づくりのお惣菜が並ぶなか人気は、あしたか牛の旨みが溶け込んだ「コロッケ」と「メンチカツ」。なかでも、ひき肉がぎゅっと詰まった「100%ギッシリメンチ」は、手間暇かけて仕込むこだわりの逸品です。

「余計なものは入れない無添加。お肉の味を信じていますから」と店長の輿五澤さん。「揚げたて」は運次第ですが、いつでも買える「冷凍」は食卓の強い味方です。

あしたか牛を思いきり味わうなら、御殿場市の時之栖にある「GKB-fu焼肉店」は外せません。ここは、園内で造られる地ビールを片手に、あしたか牛を存分に楽しめる焼肉店です。

特におすすめなのが、あしたか牛の部位をじっくり味わえる「あしたか牛4種食べ比べ」。さらに、網からはみ出しそうな「あしたか牛リブロース一枚焼き」は、見た目も味も満足度の高い一皿です。冷えた地ビールと一緒に口に運べば、思わず笑顔がこぼれるおいしさ。日々の疲れもすっかり癒やされ、幸福感に包まれます。

東名高速道路ドライブ中にサッと立ち寄れるのはもちろん、一般道からも気軽にアクセスできるのが、EXPASA足柄(下り)にある「足柄の森レストラン」です。

ここに来たら、迷わず「あしたか牛のスタミナ丼定食」を。あしたか牛の甘い脂に、ニンニク醤油がガツンと効いていて、とにかくお箸が止まりません。サービスエリアでこんなに質のいいお肉に出会えるなんて……と、ちょっと得した気分になれるはず。

帰り道には、「あしたか牛レトルトカレー」をお土産にどうぞ。あしたか牛の旨みがルーに溶け込んでいて、レトルトとは思えない贅沢な仕上がり。横山精肉店や、長泉町の「JAふじ伊豆 ながいずみ営農経済センター」で買えるので、見つけたらぜひ手に取ってみてください。
自分へのご褒美に、あるいは大切な方への贈り物に。あしたか牛のおいしさを、お家で気軽に味わってみませんか?
#御殿場市 #長泉町 #沼津市