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サーフィンの町に芽吹く「波乗りレモン」。荒れた茶畑を蘇らせる牧之原の挑戦
公開日:2025.12.12
果物
特集

県内有数のお茶の産地として知られる、静岡県牧之原市。しかし近年は、荒れた状態の茶畑も見られるように。そんな中、新たに広がりを見せているのが「波乗りレモン」です。なぜ、牧之原市でレモン栽培が注目されているのでしょうか?酸っぱい幸せが広がる牧之原を訪ね、波乗りレモン部会のメンバーに話を聞きました。

静岡県中部に位置する牧之原は、東海道沿いの丘陵地帯と駿河湾に面した町。茶畑が広がる丘の向こうには、透明度の高い海が広がります。

とくに、波質が良い「静波海岸」は、春から秋にかけて全国からサーファーが集まる、サーフィンのメッカ。ビーチには、サーフボードに立つユニークな自由の女神像もあり、訪れる人をほっこり和ませます。

そんなサーフィンの町・牧之原で有名なのは、やはりお茶です。
江戸時代以降、茶畑が広がり、全盛期には日本一の茶の産地として知られるまでになりました。
ところが、近年では、手入れの行き届かない茶畑が増加。荒れた茶畑をどう活かすか、それが牧之原における大きな課題となったのです。

レモン部会のメンバー(堀内虹弥さん、大石直弘さん、木下和義さん、高垣はるかさん)
そんな状況を変えようと、2023年8月に立ち上がったのが「波乗りレモン部会」。荒れた茶畑からの転換として、レモン栽培を開始しました。
牧之原のサーフカルチャーを背景に、「波乗りレモン」をブランド化しています。
部会の仲間は年々増え続け、2025年11月時点ではなんと66名にまで拡大。平均年齢は40代後半と比較的若く、「酸っぱい幸せ!」を合言葉に、レモン栽培はもちろん、PR活動にも積極的に取り組んでいます。
さらに、レモンをもっと身近に感じてもらおうと、イベントではユニークな「レモン帽子」を着用する姿も地元で話題に。この帽子をかぶって広報の第一線に立つ“レモンマン”、堀内虹弥さんは、地域イベントやSNSで大人気。「波乗りレモン」ファンをどんどん増やしています。

急斜面や小区画でも栽培できる、育てやすさこそ「波乗りレモン」の強み。堀内さんは「荒れた茶園を再び活かす、大きな助けになっている」と言います。

波乗りレモン部会員のうち、約50名は茶農家。多くのメンバーが、お茶と並行してレモンを育てています。収穫期は10月から2月まで。お茶の繁忙期と重ならないため、両立しながら無理なく栽培を続けられるのです。

レモンと聞くと、鮮やかな黄色い果実を思い浮かべるかもしれません。ところが「波乗りレモン」は、大きさも色も形もさまざま。リスボン、ユーレカ、マイヤー、スイート、璃の香など、その多彩な品種をひとつにまとめたブランドが「波乗りレモン」です。

そんな個性豊かなレモンを育てる一人が、木下和義さんです。
もともと、みかんを栽培していた木下さんがレモンに挑戦したきっかけは、「波乗りレモン部会」の立ち上げでした。ブランドレモンに懸ける思いに共感し、加入を決めたといいます。
木下さんの畑では、リスボンとマイヤーの2品種を栽培。それぞれの個性を活かしながら、地域の気候や土壌に合わせた丁寧な手入れを続けています。

木下さんは「レモンが実るたびに、町全体が元気になるように感じられるんです」とほほ笑みます。
「それに加えて、これから始まるバイオ炭の活用も楽しみです。茶畑の木を炭にして土に戻すことで、土壌改良だけでなく二酸化炭素の排出削減にもつながります。持続可能な農業を体感できると思うと、ワクワクします」と語ります。

同じく、波乗りレモン部会のメンバー、大石直弘さんにもお話を伺いました。
大石さんがレモン栽培を始めたのは、部会が立ち上がる前のこと。新年の顔合わせで、市の関係者から「牧之原でレモンのブランド化が始まるから、やってみない?」と声をかけられたのがきっかけだったといいます。
「農業経験がなかったので、逆に新しいことに挑戦できるチャンスだと思いました」と目を輝かせながら語る大石さん。もともと地元の農協に勤めており、柑橘を担当していた仲の良い先輩から育て方を学んだといいます。
大石さんの畑では、寒さに強く育てやすいリスボンに絞って栽培。初めての挑戦ながらも、確かな手応えを感じているそうです。

「収穫のときは本当に楽しいです。西の代表は瀬戸内レモンですが、東の一大産地として“波乗りレモン”を盛り上げていけたらうれしいですね」と大石さん。
木下さんも、「料理に使ったり、お酒に入れたり。夏の作業中には、自家製のレモン水でひと息ついて栄養補給します。食卓に自分のレモンが並ぶ瞬間が、何よりの幸せですね」笑顔を見せます。

「波乗りレモン」は、牧之原市の道の駅や静岡県内のイオンなどで購入できます。価格は2~3個セットでおよそ460円ほど。手軽に手に入るので、自宅の食卓でも、さまざまな料理やドリンクで楽しんでみてください。

堀内さんに「波乗りレモン」のおすすめの食べ方を聞いてみました。
「一番手軽なのは、自家製レモンシロップです。作り方は、レモンをスライスして砂糖と交互に瓶に入れるだけ。数日置けば、サイダーやお湯で割って楽しめます。波乗りレモンは、防カビ剤やワックスを使っていません。皮まで安心して使えるのも嬉しいポイントですよ」とのこと。

さらに、牧之原の新たな名物として、「波乗りレモン」を使った加工品も登場しています。
ブランド茶「望」とコラボした「レモン緑茶」は、爽やかな酸味と茶の旨みが絶妙にマッチ。市内産茶葉を使った「静岡レモンティー」は、パッケージもおしゃれで、手に取るだけで気分が上がります。
どちらも、牧之原市の「富士山静岡空港」などで購入可能。旅のお土産や特別なティータイムにぴったりです。

「波乗りレモン」は、農家さんの情熱と爽やかさがぎゅっと詰まったご当地レモン。波に乗るようなフレッシュな幸せを、牧之原で味わってみませんか?
#牧之原市