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地域を耕す新しい力。三島の次世代農家グループ「のうみんず」が届けるミニ白菜

公開日:2025.12.26

野菜

特集

箱根山の西側。静岡県三島市に広がる標高50メートル以上の丘陵地で栽培される野菜は、「箱根西麓三島野菜」というブランド名で全国的に知られています。この地で今、農業をもっと楽しく、もっと身近なものにしようと活動しているのが、6人の農家グループ「のうみんず」。今回は三島市を訪ね、「のうみんず」の活動と、秋から冬に旬を迎える看板野菜「ミニ白菜」についてお話を伺いました。

 

静岡県三島市で、2015年に「愉しく、やりがいのある農業」を掲げて結成されたのが、個性豊かな農家グループ「のうみんず」。バイク屋、出版社、自衛隊など異色のキャリアで培った視点が、代々続く農業や野菜生産の専門性と結びつき、地域に新しいムーブメントを巻き起こしています。

 

メンバーは現在6人。リーダーの宮澤竜司さん、前島弘和さん、川崎耕平さん、小林宏敏さん、岩井良太さん、内藤和也さん。彼らは、JAふじ伊豆三島函南地区の青壮年部に所属。それぞれ農業を通じて、グループ活動を行っています。

「のうみんず」が栽培するのは、ロメインレタスとミニ白菜の2品目。ミニ白菜をメインで栽培しているのが、塚原地区「ヤマツ川崎農園」代表の川崎耕平さんです。川崎さんは「のうみんず」の初期メンバーの一人でもあります。

 

川崎さんは、家が代々農家だったため、幼い頃から農家になることを志していました。農業高校、そして九州の農業大学を卒業後、すぐに就農しました。

 

農業は、“自分次第”で定年がない点が魅力だと語る川崎さん。「僕にとって農業はストレスフリーです。いつも外で日の光を浴び、季節を感じながら心も体も健やかでいられます。」と、そのやりがいを語ります。

 

2015年は記録的な大雪に見舞われ、ハウスが倒壊するなど、農家にとってまさに試練の年でした。そんな逆境の中、川崎さんは農協の若手メンバーと手を取り合い、新たな可能性を模索しました。「野菜をもっと身近に感じてほしい」そんな思いから生まれたのが、「ミシマベジマルシェ」でした。ミシマベジマルシェは地元の新鮮野菜や加工品、フード、カフェ、雑貨店など様々なお店が出店するイベントです。

 

当時を振り返り、川崎さんは笑顔でこう語ります。
「おしゃれなマルシェにしようとこだわって、みんなでリンゴの木箱を加工したんです。並べた瞬間、誰もがワクワクする空間になりました。」

 

こうして、農協の出荷部会という枠を超え、地域を盛り上げることを目的とした「のうみんず」が誕生。このマルシェは、今でも毎月最終日曜日に開催され、多くの人に愛され続けています。

 

「のうみんず」が誇る、看板野菜がミニ白菜です。川崎さんのミニ白菜の畑は、標高約100m。畑一面に並ぶミニ白菜の完璧な配列は、実に見事です。

 

川崎さんは、魚粕を肥料に取り入れたり、毎年土壌診断を行い、肥料設計を見直したりしています。このこだわりがミニ白菜の美しさにつながっているのです。

 

ミニ白菜の種まきは8月下旬。定植直後は高温と乾燥との闘いであり、最初の3日間は徹底した水管理と害虫対策が欠かせません。この厳しい夏を乗り越えたミニ白菜は、10月上旬から12月中旬にかけて収穫期を迎えます。

 

収穫作業は、熟練の技が光る瞬間。川崎さんは刃先の丸い包丁を使い、株の根元をサクッと手際よく切り落とし、白菜を傷つけないように外側の葉を丁寧に取り除きます。すると、中から美しい白菜が姿を現します。

 

 

特別に、収穫したばかりの白菜をカットしていただきました。ナイフが入ると、外側の緑と対照的な、鮮やかな黄色い葉が顔を出します。このコントラストの美しさこそ、高品質な証。川崎さんもこの断面を見て、生育が順調だったことを確認します。

 

収穫されたミニ白菜は、「のうみんず」オリジナルのパッケージをまとい、消費者のもとへと旅立ちます。デザインを担当したのは、市内のグラフィックデザイナー、岡本雅世さん。農産物パッケージのイメージを根底から覆す、モダンなデザインに目を奪われます。

 

ミニ白菜は、三島市内や静岡県東部のスーパー、農協の直売所、そして「おなかすいたファームサントムーン柿田川店」などで購入できます。

 

「おなかすいたファームサンとムーン柿田川店」の店長・望月大輝さんも、「のうみんず」の取り組みに大きな期待と信頼を寄せています。

 

望月店長は、自ら畑に足を運び、収穫されたばかりの野菜を直接仕入れに行くほどの熱意の持ち主。「のうみんずさんの野菜は、ファンが多いんです」と語る望月店長。

 

店頭には、スタッフの手書きによる、心温まるポップが並びます。こうした工夫が、「のうみんず」のこだわりを飾らない形で消費者に伝えています。

 

白菜と聞けば、鍋や炒め物を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、ミニ白菜は、生で食べてこそ、その真価を発揮します。

 

おすすめは、生のままコールスローとして楽しむ方法。キャベツの代わりにミニ白菜を使うことで、驚くほどのシャキシャキ感が楽しめます。作り方は簡単。白菜を細切りにし、マヨネーズと酢、砂糖少々で和えるだけ。


生はもちろん、加熱調理にも最適。肉や魚介類と一緒にさっと炒めれば、シャキシャキとした食感を残しつつ、火を通した甘みが楽しめます。

 

ちなみに、「のうみんず」の取り組みは、単なる農作物の生産だけにとどまりません。

例えば、彼らが育てるロメインレタスは、三島市の学校給食でおなじみ。1年に一度「のうみんずの日」を設けて給食に出すとともに、三島市の小学校で食育の授業も実施し、地域の子どもたちに農業の魅力を伝えています。

 

 

川崎さんは「若手と呼ばれる時代は終わった。次のステージに行きたい」と、次の目標を見据えています。それは、地域を支え、未来の担い手を育てること。「のうみんず」の挑戦は、これからも続きます。

#三島市