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港町に残る将軍もてなしの味。 南伊豆町のイセエビ郷土料理「将軍鍋」で堪能する海の恵み

公開日:2025.12.26

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静岡県東部、伊豆半島の最南端にある南伊豆町。名勝・石廊崎に代表される急峻な海岸地形や複雑な岩礁が良質な漁場を形作っており、豊富な海の幸に恵まれています。中でも、イセエビは全国有数の漁獲量を誇り、毎年、秋には「伊勢海老まつり」が開催されるなど、南伊豆町を象徴する海産物となっています。そんなイセエビの魅力を存分に堪能できる郷土料理があると聞いて、早速、現地へ足を運んでみました。

 

古くから風待ち港として栄えてきた子浦(こうら)地区には、江戸時代から南伊豆町に伝わる郷土料理「将軍鍋」があります。地元で親しまれてきたこの鍋は、南伊豆ならではの味として今も受け継がれています。

 

その「将軍鍋」が味わえるの場所の一つが、「民宿いすゞはま荘」です。昭和41年から60年以上続くこの宿は、ダイビングや釣りを楽しむ宿泊客で賑わいます。地魚を使った料理が人気ですが、多くの宿泊客がお目当てにしているのが、「将軍鍋」です。

 

「江戸時代、十四代将軍徳川家茂公が強風を避けて子浦の港に入港した際、将軍をおもてなしするために若者たちが寒い冬の海に入って網を引き、採れたイセエビやサザエなどを味噌仕立ての鍋にして献上したそうです。それ以来、『将軍鍋』の名前で、この地域で親しまれています」

 

そう語るのは、3代目で板長を務める小林憲利さん。子どもの頃から厨房に入って調理を手伝っており、その頃から「将軍鍋」を出していたのを憶えているそうです。

 

いすゞはま荘の「将軍鍋」のレシピは、初代の頃から変わっていません。具材はメインのイセエビのほか、マハタやカサゴ、ブダイなど採れたての地魚、地物のサザエ、野菜類。

 

つゆは、カツオ出汁をとって味噌を溶かし、みりんを加えます。少量の赤ワインを入れて風味付けをするのが、いすゞはま荘のレシピの特徴です。

 

「イセエビは生きた状態のものを仕入れています。大きさは300グラムくらいが鍋にするのにちょうどいいですね。最初にイセエビを鍋に入れて出汁をとるのですが、跳ねると危ないのでシメてから入れます」

 

イセエビが一匹丸ごと入った「将軍鍋」の見た目は豪快そのもの。茹で上がったイセエビの真っ赤な色が食欲をそそります。

 

野菜類を入れて、火が通れば完成。つゆをひとさじすすってみると、想像以上にイセエビの出汁が出ており、舌に浸み入るような濃厚なコクが感じられます。イセエビの殻を剥がして身を食べてみると食感はプリップリ。自然な甘みが口の中に広がり、味噌仕立てのつゆと絶妙に調和します。

 

「豊富な貝類や海藻を食べているからか、南伊豆のイセエビは臭みが少なく、甘みが強いんです。『将軍鍋』を食べた人は、“名前の通り、将軍になったような贅沢な気分だ”と喜んでくれます」と女将の小林祐子さん。

 

 いすゞはま荘では、「将軍鍋」の他にも、イセエビを半分に切ってタレを塗って焼く「鬼殻焼」や甘く煮付ける「具足煮」、刺身やボイルなど、さまざまなイセエビ料理を提供しています。

 

イセエビ漁が行われるのは、9月中旬から5月中旬まで。「将軍鍋」を味わいたい人は、ぜひその時期に南伊豆を訪れてみてください。

 

南伊豆のイセエビは一般の人でも買うことができます。伊豆漁業協同組合南伊豆支所のすぐ近くにある直売所では、目の前の港で水揚げされたイセエビが生きた状態で販売されています。

 

 「南伊豆支所に所属している漁師は約120名で、刺し網を使ってイセエビ漁を行っています。水深510メートルのところに半日程度、網を仕掛けるのですが、時間帯は漁師さんによって違います。獲れたイセエビを網から外すのに専用のカギ状の道具を使うのですが、脚がとれると商品価値が下がるため、傷つけないように素早く作業を行います。サイズが大きすぎるイセエビは、扱いにくいので割安になっていますが、味に違いはありません。しっかり包装すれば、東京くらいまでの距離なら元気に生きていますから、新鮮なイセエビを味わえます」と南伊豆支所の土屋さん。

 

南伊豆のイセエビの漁獲量は年間約7トン。黒潮大蛇行の影響もあり、平成21年のピーク時の15%ほどにまで落ち込んでしまっていますが、黒潮大蛇行が終息したことから今後の資源の回復に期待がかかっています。

 

これから寒さが増し、鍋がおいしい季節になります。冬の南伊豆を訪ねて、「将軍鍋」に舌鼓を打ってみてはいかがでしょうか?

 

 

 

#南伊豆町