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深海が育てたごちそうを味わう― 沼津市戸田のタカアシガニ ―

公開日:2026.03.05

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駿河湾と富士山を望む穏やかな港町、沼津市戸田(へだ)には、「これを目当てに旅をする人がいる」そんな特別な食材があります。それは、日本最大のカニとして知られるタカアシガニです。

 

見た目のインパクトに目を奪われがちですが、戸田のタカアシガニの魅力は食べることだけにとどまりません。魔除けの面として受け継がれてきた文化、子どもたちが学び、守り、未来へつなぐ取り組みなど、タカアシガニを通して楽しむ、戸田のグルメと暮らしをご紹介します。

 

 

タカアシガニってなに?

その大きさから豪快な味を想像しがちですが、実際はとても繊細で上品で、弾けるような食感が特徴です。

「大きい=大味」というイメージを、良い意味で裏切ってくれるカニ。
それが、戸田のタカアシガニです。

 

 

沼津市戸田とタカアシガニの意外な関係

沼津市戸田でタカアシガニが食べものとして親しまれるようになったのは、実はそれほど古い話ではありません。大正時代から底引き網漁(トロール漁)で水揚げはされていたものの、身が水っぽく大味とされ、食文化としては根付いていませんでした。

1960(昭和35)年頃、地元の料理人や旅館による調理法の工夫が転機となります。
蒸すことで甘みと旨味が引き立つことが知られ、そのおいしさが評判を呼び、次第に戸田を代表するグルメへと成長していきました。

さらに戸田は、駿河湾の深海から水揚げされたばかりの鮮度抜群の個体を味わえる、数少ない地域でもあります。タカアシガニは時間が経つと味が落ちやすく、漁期も9月から5月と限られているため、産地である戸田でこそ本来の旨味を堪能できるのです。

今では、国内はもちろん海外からも「タカアシガニを食べたい」と訪れる人がいるほど。

 

 

生きたタカアシガニに出会える、戸田ならではの食体験さかなや魚清

「さかなや魚清」は、1940 (昭和15)創業。
店内中央に設けられた大きな生け簀には、多い時には100匹近いタカアシガニが泳ぎます。

 

生け簀の海水は、道路を挟んですぐ目の前に広がる戸田港から直接引いたもの。
タカアシガニが特に多く生息している深海に近い78℃の水温を保ち、プランクトンを含むミネラル豊富な海水を循環させることで、良好な状態を維持しています。

この立地と設備があるからこそ、新鮮なタカアシガニを調理することが可能になります。

 

「さかなや魚清」を営む、佐藤晃彦(あきひこ)さん、みずほさん。

この店内に生け簀をつくるという画期的なアイデアは、晃彦さんが構想していたもので、約30年前の店舗リニューアルの際に実現しました。

「地元の方だけでなく、県外から観光でいらっしゃるお客様、最近ではシンガポールや台湾などインバウンドのお客様もタカアシガニを目当てに来店されることが多く、タカアシガニを食べるために戸田を訪れるというリピーターさんもいらっしゃいます」(みずほさん)

 

二代目主人・佐藤晃彦さんがすすめる食べ方は、シンプルに「蒸し」。
茹でずに蒸すことで、旨味を逃さず、身の甘みを最大限に引き出します。

「最近では、刺身だったり、焼いたり、楽しみ方が増えていますが、タカアシガニのおすすめの調理方法は蒸して食べること。」(晃彦さん)

 

「まずは何も付けずに召し上がってみてください」と、みずほさん。

自然な塩味と、ぷりっと弾ける食感に驚かされます。カニ酢も用意されていますが、「まずはそのままで」と言われる理由が、食べたらすぐにわかるはず。

 

脚を堪能したあとは、濃厚でクリーミーなカニ味噌。
身と絡めたり、ご飯にのせたりと、最後まで楽しみが続きます。
大ぶりの身とさっぱりとした後味で、気づけば夢中になって食べ進めてしまう。そんな不思議な魅力を持つカニです。

 

そして、「さかなや魚清」には、特別なサービスがあります。
それは、タカアシガニを注文しなくても、食事をしたお客様であれば、タカアシガニと記念撮影ができるというもの。

大きなタカアシガニを持つ体験は、なかなか他では味わえません。
その迫力ある姿を写真に収めれば、旅の思い出としても、話題づくりとしてもインパクト抜群。「駿河湾には、こんなに大きなカニが本当にいるんだ」と実感できる、戸田ならではの体験です。

天候や漁の状況により、タカアシガニの入荷がない日もあるため、実際に味わいたい場合は事前予約を。

 

 

甲羅に描かれた、戸田に伝わる魔除けのお面

タカアシガニの甲羅の凹凸が、人の顔に見えることから生まれた魔除けのお面。
発祥時期を示す明確な資料は残っていませんが、戸田で底引き網漁が始まった大正初期には存在していたと考えられています。

 

疫病や災厄は「魔」や「鬼」がもたらすもの。そう信じられていた時代、玄関という境界に、強く凛々しい表情を描いた甲羅を掲げ、家族の健康と無事を祈りました。

怖さではなく、立ち向かう強さを表現する顔。
そこには、戸田の人々の願いが込められています。

 

「戸田造船郷土資料博物館」と、併設する「駿河湾深海生物館」では、タカアシガニのはく製展示や、魔除けのお面を見ることができます。

 

館内では、お面そのもののほか、自分で絵付けができる「オリジナルお面キット」も販売。

戸田地区にあります「重要文化財 松城家住宅」では、タカアシガニ面絵付け体験を行っています。旅の思い出として、戸田の文化をにして持ち帰ることができます。

(問合せ先:重要文化財 松城家住宅/TEL0558-94-5150 事前予約がおすすめです)

 

 

 

未来へつなぐ「タカアシガニ放流」

近年、漁獲量の減少が課題となるなか、地域資源を未来へつなぐ取り組みとして、沼津市商工会では毎年禁漁期間の始まる5月下旬にタカアシガニ放流事業を行っています。


地元の沼津市立戸田小中一貫学校の生徒も参加し、性別や卵の有無を調べ、個体識別タグの取り付けや計測を行ったうえで、船上から放流します。「食べる」だけでなく、「守る」「学ぶ」まで含めて体験できるこの取り組みは、戸田の食文化を次世代へ伝える、大切な土台になっています。

 

子どもたちの日常にある、タカアシガニ

戸田では、タカアシガニは特別な地域資源であると同時に、子どもたちにとって身近な学びの題材でもあります。

戸田造船郷土資料博物館・駿河湾深海生物館見学やタカアシガニの魔除けのお面作り、タカアシガニの放流体験を通して、郷土への理解と愛着を育んでいます。

「タカアシガニや深海魚は、沼津市戸田だから身近に触れることのできる、地域学習として外せないアイテムです。近年では、漁獲量が減少、タカアシガニが手に入りにくくなっていますが、甲羅を魔除けのお面として活用するという地域の文化は、守り伝えていく使命があると思っています」(戸田造船郷土資料博物館・駿河湾深海生物館 館長 筒井久美子さん)

 

 

タカアシガニを通して知る、戸田の食文化
深海の恵みを味わい、文化に触れ、未来を考える。
子どもたちの学びや、地域の祈りが息づくこのまちで、ぜひ戸田ならではの一杯を味わってみてください。

 

 

【さかなや魚清】
所在地:静岡県沼津市戸田580
TEL
0558-94-2114
営業時間:(平日)11:00-17:00
     (土日祝)11:00-19:00
定休日:木曜日
※材料が終わり次第閉店、タカアシガニを注文される方はお電話にて事前予約をお願いします


 

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