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西部・中部

東海道の歴史と食文化にふれるグルメ旅

公開日:2024.03.21

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旅の魅力の一つは、その土地ならではの食や食文化に出会うこと。江戸時代に多くの旅人が行き交った東海道でも「新居のうなぎ蒲焼」「丸子のとろろ汁」などの名物が旅人を惹きつけました。
静岡県内の東海道宿では、歴史を感じる街並みや街道沿いの絶景を楽しみながら、新旧グルメを楽しむことができます。昔ながらの名物を食したり新しいお店を見つけたり、東海道を旅して静岡県のおいしいものを探してみませんか?

 

<今回ご紹介するのはこちら!>

 

桜えび・しらすや地場産品が並ぶ「由比・むつみ市場」(由比宿)

 

東海道16番目の宿場町・由比宿(ゆいしゅく)。県内の宿場町の中で一番小さい宿場ではありますが、興津宿と由比宿の間にあり、美しい富士山が望める難所・薩埵峠(さったとうげ)は、訪れておきたい名所です。

 

薩埵峠(写真:静岡県観光協会提供)

※薩埵峠は2024年3月現在、ハイキングコースの一部区間通行止めにより展望台には行けませんので御注意ください。詳しくはこちら

 

 

本陣跡地に整備された「由比本陣公園」、また公園内にある「静岡市東海道広重美術館」など、江戸時代の文化に触れる場所も。また、桜えびの水揚げ量が多い由比漁港があり、桜えびの町としても知られています。

 

由比漁港(写真:静岡県観光協会提供)

 

 

ここ由比宿にある「由比・むつみ市場」は、明治中期から商いを始め、桜えびやしらすの仲買人として営業する「原藤商店(はらとうしょうてん)」の直営店。由比を『結(ゆい)』とかけ、仲睦まじいという意味を込めて『むつみ市場』と名づけられたこの店では、由比の練り製品、水産加工物、地酒、缶詰、手づくりのものなど地元の生産者のさまざまな商品が並んでいます。また、観光案内所として由比の観光スポット・食事処の案内も行っています。由比ならではのお土産の購入にぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。

 

「由比・むつみ市場」を営む「原藤商店(はらとうしょうてん)」15代目の原 藤晃(とうこう)さんと、先代の原 藤蔵(とうぞう)さん

 

 

 

廃棄されていた桜エビのヒゲの部分を粉末にし、塩と合わせた「桜えび塩」、唐辛子と合わせた「桜えび唐辛子」、揚げ玉に加工した「桜えびの揚げ玉」は人気商品。
また、「桜えびご飯の素」は、素干し桜えびと調味液がセットになったもので、ご飯と一緒に炊飯器で炊くだけで簡単に炊き込みご飯ができます。化学調味料不使用。1合用と2合用と用意することで、ひとり暮らしから核家族化が進んだ現代に合わせた使いやすい形態になっています。

 

 

コンビニの商品開発を行っていた経験を持つ藤晃さん。その経験を活かして生まれた「週末のごちそう 原藤グラタン」。「富士ミルクランド」の牛乳を使用し、ホワイトソースは家庭でつくるようにお店で手づくり。ホワイトソースの味はもちろん、チーズや素材の配合については何度も試作を繰り返して誕生しました。おすすめは桜えび。店内でいただくこともできます。

 

 

 

由比・むつみ市場
住所:静岡市清水区由比町屋原120
TEL:054-377-1005
https://haratou.com/yuimutsumi/

 

江戸時代から伝わるお菓子「たまごもち」(由比宿)

 

写真:静岡市提供

 

『東海道中膝栗毛』では、「名物さとう餅」の名前で登場するたまごもち。江戸時代の頃、東海道を行き来する旅人に振る舞われていたお菓子で、由比宿にはたまごもちを提供する茶店がいくつかあったといいます。江戸時代からの伝統を守り、うるち米を使い、たまごのように丸い姿からたまごもちと呼ばれるようになりました。ちなみに卵は不使用だそうです。
現在は、1926年創業の春埜製菓のみで購入可能。あたたかい人柄の店主家族が出迎えてくれます。由比エリアの散策の途中にのぞいてみるとよいでしょう。

 

春埜製菓
住所:静岡県静岡市清水区由比北田92
TEL:054-375-2310
http://www.haruno.com/

 

歌川広重の浮世絵にも描かれた丸子名物・とろろ汁店(丸子宿)

 

 

江戸時代よりも前の1596年創業の老舗「とろろ汁の丁子屋」。お茶屋として開業し、この先に控える宇津ノ谷峠を越える旅人たちに精をつけてもらうためのおもてなしとして、このあたりで採れた自然薯を使ってとろろ汁を提供するようになったと言われています。歌川広重、松尾芭蕉、十返舎一九などにより、浮世絵、俳句、物語などでも記されているほど。創業から400余年を超えた今でも、行き交う旅人へのおもてなしとしてとろろ汁を提供し続けています。

 

こちらでいただけるとろろ汁は、すりおろした自然薯に、卵、マグロの煮汁、醤油を加え、焼津産のかつお節でとった出汁と自家製の白味噌を合わせた味噌汁でのばしたもの。自然薯はさまざまなサイズがあり、一つひとつ個性があるため、それぞれの香りと粘りを見ながら、すり鉢で職人が調整していくといいます。機械ではなく人の手で手作りすることがおいしさの秘密。熟練の職人だからこそ、おいしいとろろ汁が出来上がるのです。

 

いただくときは、麦飯にかけ、空気を混ぜ込むようにご飯と混ぜ合わせ、ざぁーざぁーと口にかき込むように思い切って召し上がってみましょう。自然の香りがする素朴な味と、旨み、風味が口の中に広がります。普段はそんなにご飯を食べない方でも、このとろろに出会うと不思議なことにいつもよりたくさんご飯を食べてしまうのだそうです。

 

 

丁子屋14代目の丁子屋平吉さんは地元・丸子の活性化のためにさまざまな活動を行なっており、「NPO歴史の道 東海道宿駅会議」の理事、「丸子活性しよう会」の会長などを務めています。
今ではこの辺りでは自然薯栽培は少なくなってしまいましたが、「とろろ汁の丁子屋」では、40〜50年の長い年月をかけ、静岡県の農家と一緒に栽培方法を研究。おいしい自然薯とその栽培方法を後世に伝えることにも尽力しています。

 

歌川広重 「東海道五十三次 丸子 名物茶屋」

 

 

特徴的な茅葺屋根の建物は、国登録有形文化財にも指定されており、とても趣があります。歌川広重の浮世絵に登場した姿と似ており、建物の前で写真を撮る人も非常に多い様子。丁子屋の店自体は、江戸・明治・昭和とそれぞれの時代の古民家の集合体になっており、席数は約180席も。庭に面した有料の個室なども用意されており、シーンによってさまざまな使い分けが可能です。

 

『東海道中膝栗毛』に登場する弥次さん喜多さんは、夫婦喧嘩に巻き込まれてとろろ汁を食べることができなかったとのこと。そんな二人旅に合わせた2個セットの持ち帰り可能なとろろの羊羹をお店で販売しているので、こちらもぜひ。
なお、休日は混み合うので時間に余裕を持って訪問を。丁子屋が持つ浮世絵コレクションや、江戸時代の旅人の道具、文学作品等の展示を行う歴史資料館も併設されているので、食事を待つ間や帰り際等に忘れずに訪れてみてください。

 

 

とろろ汁の丁子屋
住所:静岡県静岡市駿河区丸子7-10-10
TEL:054-258-1066
https://chojiya.info/

 

甘酒スムージーも楽しめる、お米と麹の専門店「かど万米店」(岡部宿)

 

東海道21番目の宿場町・岡部宿(おかべしゅく)。宿場町としての規模は小さい町でしたが、とても栄え、幕府の役人や大名にもよく利用された宿場でした。江戸時代に建てられた「大旅籠柏屋」(国登録有形文化財・日本遺産構成文化財)の建物が今も残されており、資料館として公開。当時の面影を感じながら宿場の歴史を知ることができる場所になっています。

 

岡部宿の大旅籠柏屋(写真:静岡県観光協会提供)

 

 

そんな岡部宿で大正元年からお米や醤油などの食料品やたばこなどを扱う商店として開業した「かど万米店」は、昭和11年から糀(こうじ)づくりをスタートし静岡県内外の23種類程度のお米を取り扱い、糀菌を使って様々な糀を作っています。
「かど万米店」では、糀文化を新しい視点で提供し、地域の食文化を広げるために、さまざまな取組を行っています。

 

 

地元産のニンジン、ナス、生姜、大根を使用した「金山寺味噌」や伊豆の在来大豆・伊豆大豆を使った「伊豆のおみそ」など、糀を使った商品もお店で手作りしています。
味噌づくり教室を開催したり、自分で手づくりできるようにレシピと金山寺味噌用の糀も用意しており、家庭で手づくりするために材料を求めてお店を訪れる方も多いとのことです。

 

 

増田さんのこだわりは、農家さんの田んぼを必ず見に行き、そして対話すること。
「農家さんは、お米に対する“哲学”を持っています。味はもちろんですが、農家さんの仕事ぶりやこだわりの哲学を聞き、その上でお店に仕入れるかを考えるようにしています。一度だけではなく、必ず毎年、訪問するようにしています」。
増田さんが共感した哲学を持つ農家さんは、偶然にも自然農法や有機JAS、特別栽培米などでお米をつくっている方が多かったそう。店頭にはこれらの文字が並ぶお米がたくさん置かれており、食に関心が高いお客さんからも人気を集めています。

 

「最近は味噌づくりをする方がとても増えました。甘い味噌にしたいのか、塩味がある味噌にしたいのかなど、それぞれの好みにあった糀を提案しています。お米の糀以外にも、そばの実、むかご、コーヒー豆などから糀をつくって欲しいという変わったオーダーもいただいています」と5代目・増田俊さんは話します。

 

 

静岡の「海野農園」のイチゴ、岡部町の地元農家さんのミカンやイチジク、袋井の「やすい農園」のメロン、岡部町の「かねか園」の抹茶に、静岡県産のお米でつくった糀を掛け合わせた「甘酒スムージー」も販売しています。お米同様に、いずれの農家さんにも増田さん自身が会いに行き、その栽培方法の哲学に共感できた方の農産物のみを使用して採り入れています。

 

ドロドロし過ぎず、ほど良いとろみのある飲み物で、甘酒が苦手という方でも果物などを組み合わせることで、フレッシュな味わいを一緒に楽しめるように工夫。一杯一杯、オーダーを受けてから手づくりしています。夏は甘酒を凍らせたものを氷として使用し、半解凍の状態でつぶしながらいただくと、シャリシャリとした食感が楽しめるようになっています。

 

おすすめは抹茶スムージー。抹茶の量の調整には、かなりの時間をかけてつくったとのこと。苦過ぎず、それでいて抹茶の風味と香りの良いとこだけを引き出したスムージーなので、ぜひ一度、味わってみてください。

 

かど万米店
住所:静岡県藤枝市岡部町内谷633-5
TEL:054-667-0050
https://kadoman-kometen.jp

 

旅人の足腰の疲れを癒す「瀬戸の染飯」(藤枝宿)

 

写真:藤枝市提供

 

戦国時代から上青島村瀬戸町(現・藤枝市)の茶屋で提供されていたという「瀬戸の染飯(そめいい)」。強飯(こわいい)と呼ばれるもち米を蒸したものに、クチナシの実で黄色に着色。すりつぶして薄くのばし、小判型などに形を整えたあと、干すことで携帯食として食べられていました。
クチナシの実は山梔子(さんしい)と呼ばれる漢方薬でもあり、消炎・解熱・鎮痛・利尿などの効果が期待されるもの。街道を歩く旅人の足腰の疲れを癒す名物として広く知られています。

 

一時期は家庭料理としてでしか見られなくなっていましたが、昭和29年創業のお弁当・仕出しの「喜久屋」では、約60年ほど前に藤枝の名物になるよう、商工会議所と共同でこの「瀬戸の染飯」の復活に尽力。現代の人が食べやすい形のおにぎりとして提供するようになりました。
※染飯は「染飯弁当」として販売。写真のものと販売形態が異なります。要事前予約

 

喜久屋
住所:静岡県藤枝市駅前1-6-19
TEL:054-641-0668
https://kikuya-f.co.jp

 

ふわっと泡の食感に感動!「たまごふわふわ」(袋井宿)

 

写真:とりや茶屋提供

 

江戸時代の文献「仙台下向日記」によると、袋井宿の大田脇本陣で宿泊者の朝食として提供されていたという「たまごふわふわ」。卵とだし汁だけで作られたシンプルな料理で、ふわっと泡立てた食感がやみつきになります。徳川将軍家の饗応料理の献立の一品でもあったという記録もあり、武士や豪商が食した高級料理であったとも言われています。

 

現在の「たまごふわふわ」は、袋井市観光協会が地元の新名物として再現・復活させたもの。市内の飲食店では、これをアレンジし、チーズケーキにするなどさまざまなメニューが生まれています。
今回、ご紹介するのは、ハンドミキサーなどの機械に頼らず、当時の作り方にならって手でかき混ぜてつくっている「遠州味処 とりや茶屋」。店主が昆布とカツオから丁寧にとった出汁を使っており、ふわっとぷしゅっとした食感がたまりません。でき立ては熱々なのでご注意を。

 

写真:袋井観光協会提供

 

遠州味処 とりや茶屋
住所:静岡県袋井市高尾町15-7
TEL:0538-42-2427

 

たまごふわふわについてもっと知りたい場合は……

 

▼袋井宿「たまごふわふわ」
https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/soshiki/syougyou/1/taberu/11027.html

 

▼たまごふわふわパンフレット
https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/material/files/group/87/tamagohuwahuwa.pdf

 

浮世絵にも描かれるほど古くから親しまれた「うなぎ蒲焼」(新居宿)

 

新居関所

 

浜名湖といえばうなぎの養殖が盛んな地域として全国的にも知られています。浜名湖での養殖が始まったのは明治時代ですが、新居宿がある現・湖西市にもうなぎを育てる養鰻池がたくさんあったと言われています。
このエリアでうなぎが有名になったのは、養殖が盛んになったからではなく、実は、歌川広重の浮世絵「荒井 名ぶつ蒲焼」にもうなぎの蒲焼が描かれており、昔からこの地域でうなぎは有名だったことが分かっています。
浜名湖自体が天然うなぎの生息地。新居宿の旅籠・紀伊国屋では、秘伝のタレを使ったうなぎの蒲焼が提供され、とても評判だったという記録が残されています。

 

 

写真:湖西・新居観光協会提供

 

1974年の創業の「うな善」は、関東風うなぎ料理の専門店。背開きにしたうなぎを焼いた後、一度、蒸すことでふわっと仕上げ、そして創業以来継ぎ足しで使っている秘伝のタレをつけてから備長炭で焼き上げています。表面は香ばしく、それでいて中はふんわりとしたうなぎ。ぜひ一度、ご賞味ください。

 

うな善
住所:静岡県湖西市新所4419-6
TEL:053-578-1086
http://unazen.jp/

 

湖西のうなぎについてもっと知りたい場合は……

▼湖西市の特産品「うなぎ」について
https://www.city.kosai.shizuoka.jp/soshikiichiran/hisho/gyomuannai/5_1/miryoku/10222.html


そのほかの東海道グルメ

 

この記事ではほんの一部のご紹介ですが、各宿には魅力のある食・食文化が数多く存在します。
東海道グルメをより楽しむためにオススメのWEBサイトをご紹介します。

 

「東海道まちあるき」
https://tokaido-guide.jp/
『日本初「旅ブーム」を起こした弥次さん喜多さん、駿州の旅』パンフレットをはじめ、藤枝市、静岡市の各宿場町の情報が詳しく紹介されています。

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