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令和4年度ふじのくに食の都づくり仕事人受賞者のご紹介「加藤 敦子さん」
加藤敦子さんは伊豆市地蔵堂の古民家で創作の会席料理を提供している。店の流儀は1日1組限りであること、旬の地物のお任せコースであること、何回か場所を替えてもてなすこと。
まず庭先へ。味噌樽をひっくり返した風流な離れに、天気の良い日は野趣溢れる縁台に、アミューズが用意される。次いで土間のテーブル席へ。黒漆の大きな折敷に、野山の景色を描くように季節の前菜が並べられる。春先なら梅の花をかたどった鱒の寿司、近くの山で採れたむかごの胡麻豆腐、天城の川芹をあしらったり、近所の豆腐屋さんのおからを煎って雪花に散らしたり。さらに裏庭の梅の小枝が花を添える。そして一息ついたら、いよいよ座敷の囲炉裏端へ。本日のメイン料理に舌鼓を打ち、囲炉裏で炙る焼きおにぎり、お茶漬け、お新香で〆となる。ふと顔を挙げると窓越しに里山の借景が広がっている。春は桜、初夏は新緑、秋は紅葉が目のご馳走になる。裏に流れるせせらぎには、夏が近づくと蛍が舞う日もあるという。「季節や時刻の移ろいの、その一瞬の情景をお土産にしていただければ…」。
コースには地元地蔵堂の本山葵が一本供される。お客さんが自ら鮫皮で摺り下ろし、刺身、肉料理、野菜、おにぎり、お茶漬けなどに付けて楽しむ。この下ろしたてだけで酒が進むというお客も。短くなった茎の残りは加藤さんが細かく刻み、浅漬けやお味噌汁に忍ばせる。辛みの中に隠された甘み、苦みの微かな輝き。格別な香りとともに本物ならではの贅沢にほかならない。いつもは脇役の山葵も、ここでは主役の一端をものの見事に務めている。
「いろいろな会話を通してお客様と心のキャッチボールをするのが楽しいですね」と加藤さん。「初めての方も、お帰りどきにはお友達のように親しくなり、また『ただいま』と笑顔で帰ってきてくださる」。料理をつくることは、つながりをつくること。そのつながりが加藤さんの「おもてなしを続ける力」になっている。
静岡食材を使った人気メニュー
あしたか牛のローストビーフ 山葵添え、椎茸・そば・桜海老のかき揚げ、おろし山葵ごはん など
この店で使っている静岡食材
本山葵・お米(伊豆市地蔵堂)、お茶(伊豆市姫之湯)、伊豆牛(伊豆の国市大仁・ひらい牧場)、あしたか牛(長泉町)、駿河シャモ・万元鶏(富士宮市・青木養鶏場)、遠州シャモ(浜松市)、地魚(相模湾・駿河湾)、富士山サーモン(函南町・柿島養鱒)、里芋・大根・蕪などの地野菜(伊豆市)、フキノトウ・ノビル・タラの芽・明日葉・馬酔木・ワラビ・コゴミなどの山菜(伊豆市地蔵堂)、椎茸・なめこ・シロアワビタケ・ヤナギノコ等の茸類(韮山・増島農園) など

仕事人
加藤 敦子
羅漢
三島市出身。30年ほど前、今は亡き陶芸家のご主人と伊豆市地蔵堂の古民家をリノベーションして移り住む。「ものがのって初めて器」「器も料理もともに主役」というご主人の思想に共鳴して料理をつくり、「器と料理の会」のお客に振る舞ううち、次第に料理が自身の生業となった。空間・時間の中に料理もあると考え、季節が移るリズムに合わせて3~4週間ごとに出す料理を替えながら、1日1組限定のおもてなしに生かしている。

折々の季節を、色と形と配置で模した創作料理。

囲炉裏で焼きおにぎりをつくる

地物の本山葵はお客に鮫皮で下ろしてもらう