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【令和3年度仕事人受賞者のご紹介】稲葉 光紘さん
駿河湾と遠州灘という豊饒の海を抱えるふじのくに。「その恩恵に感謝しながら包丁を握っています」と彩り料理「このは」店主の稲葉光紘さんは語る。掛川駅前にあるこの店は、まず何といっても魚である。メイン写真の姿造りは海の恵みそのものと言っていい。この日は駿河湾から天然真鯛、金目鯛、鯵、遠州灘から尾長鯛、ホウボウが厨房に届けられた。稲葉さんは最小限の仕事しか加えない。「静岡県は水揚げされる魚種が多く、どれも新鮮で、仕入れもしやすい」。その仕入れには静岡や浜松の魚市場へ自ら出向くこともあれば、多くの料理人の支持を集める「サスエ前田魚店」を介して、焼津港や小川漁港から直送されるものもある。
稲葉さんにとって、魚とともに欠かせないのが野菜だ。もっと美味しい野菜はないかと思いあぐねていたとき、「ふじのくにの旬を食べ尽くす会(旬の会)」の岩澤敏幸さんが救いの手を差し伸べた。掛川のオーガニック農園「しあわせ野菜畑」へ一緒に行こうと誘われ、出掛けた。有機栽培で育てる野菜は、なぜ味が濃く、日持ちも良いのか。実際どんな苦労があるのか。そうした話に耳を傾けると気づかされることは多い。その日に買い付けた人参、茄子、ズッキーニは、自分の店を会場とした「旬の会」でサラダにして振る舞った。一般参加者の評判も良く、新たな一歩を踏み出せたという。袋井産のとうもろこし「甘々娘」や「うまレタ。」という名のレタス、磐田豊岡の「ファーム新貝」が栽培する「海老芋」を使うようになったのも岩澤さんの紹介による。
常連さんの顔がほころんだとき、「その方の人生の一部になれたような気がして、何とも言えずうれしくなる」と稲葉さん。そんな料理人としての喜びが、稲葉さんの足を、県内各地の魚市場や野菜産地へ向けさせる。「ここは魚も野菜も不自由しない。料理人にとってこれほど腕の振るいやすい環境はありません」。
静岡食材を使った人気メニュー
このは全種姿造り、金目鯛の姿煮、舞阪のシラスおろし、駿河湾・遠州灘産の鰆の西京焼き、焼津の黒はんぺんフライ、菊川産卵のだし巻玉子 など
この店で使っている静岡食材
天然真鯛・金目鯛・尾長鯛・鰹・鰺・ハタ・クエ・ホウボウ(駿河湾・遠州灘)、メイゴ(焼津市)、伊勢海老(駿河湾)、あさり・サザエ(浜名湖・焼津市)、人参・茄子・ズッキーニ(掛川市)、とうもろこし・レタス(袋井市)、海老芋・白葱(磐田市) など

仕事人
稲葉 光紘
彩り料理 このは
彩り料理「このは」店主。静岡市清水区出身。東京にある調理師専門学校を卒業後、東京の「吉兆」、焼津の「たち吉」でそれぞれ2年間ほど修業を重ねる。2010年「ヤマハリゾート葛城北の丸」に入社し、7年間勤務して腕を磨いた。ふぐ処理師の資格を取得し、婚礼料理の祝い膳を担当。素材、花、器などで季節感を演出する技法も学び、今の仕事に活かしている。2017年彩り料理「このは」を掛川駅前に開店し、現在に至る。
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不動の人気を誇る「金目鯛の姿煮」。ふっくらとした食感の中に、魚本来の旨味が染み込んでいる。

県内各地の地酒を豊富に揃えている。常時30種類をストック。年間10本前後しか出荷されない英君酒造の「暴君」など、酒好きも唸る銘柄ばかり。

掛川で有機栽培をしている「しあわせ野菜畑」を訪ねた折りのスナップ。生産者との情報交換は、新しい料理の工夫やアイデアにつながることも。