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【The 仕事人 of the year 2021の受賞者のご紹介】一木 敏哉さん
「舞楽食」。耳慣れない言葉である。実は「懐石いっ木」のご主人、一木敏哉さんの造語で「舞楽人の食事」を意味する。一木さんの生まれ故郷、遠州森町には小國、山名、天宮の三つの神社が鎮座し、それぞれのお祭りに重要無形民俗文化財の舞楽が奉納されてきた。その舞を踊り、楽を奏する人々は、かつてどんな食事をしたのだろうか。胸に兆した疑問をそのままにしておけず、三社を巡った一木さんは文献に目を通し、聞き取り調査を行って、いにしえの献立にたどり着いた。再現に打ち込んだのは言うまでもない。
なぜ、ここまで踏み込むのか。「日本料理を生業とする身にとって、この地の食の根底に触れ、本質を探ることは、料理人としての幅を広げ、自らの個性表現に必ずつながる」確信があったから。そして2019年、同志の料理人2名とともに舞楽食を現代の味にアレンジし、静岡文化芸術大学で学生、留学生、一般公募の参加者らに振る舞った。和食も舞楽も世界に誇る私たちの文化である。「馴染みやすい食を入口に、そこから舞楽への興味も深めてもらえたら」。身近に培われた伝統を次世代へ継承する一助になれば、と願うからに他ならない。
「毎年、料理に限らず、何か新しいことに10の挑戦を自らに課しています」と一木さん。温故知新。古いことでも自分にとって新しいことであればよい。日本料理アカデミーや世界料理学会in HAKODATEでの県産食材の紹介、地域の子どもたちへの食育活動も、この想いから生まれた取り組みの一つに過ぎない。食文化を未来へ繋ぐこと。それは一木さん本人を未来へ繋ぐことでもある。

仕事人
一木 敏哉
懐石いっ木
「懐石いっ木」店主。周智郡森町出身。調理師専門学校卒業後、京都「菊乃井本店」で腕を磨き、修業当初の「5年間で独立」という目標通りに地元へ戻り、開店の資金作りに飲食店などを掛け持ち勤務。唎酒師、ふぐ処理師の資格を取得後、28歳で「懐石いっ木」を開店。2007年日本料理アカデミー主催の第一回日本料理コンペティションで、ベテランを抑えて東海北陸地区で優勝。2015年ミラノ万博へ日本代表として赴き、日本館で県産食材(焼津の鰹節・日本酒・浜松のみかんジュースや青海苔)を使った料理をデモンストレーション。2019年世界料理学会in HAKODATEで県産きのこを使った料理をプレゼンテーション。同年浜松文化芸術大学で「舞楽食」のワークショップを開催。2020年京都大学での日本料理アカデミーで一番だしの実演を担当。
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一木さんが再現し、浜松文化芸術大学でのワークショップで展示された天宮神社の舞楽食「めめんぼう」。当日は舞楽の実演披露の後、小國神社の舞楽食の試食会も催された。